傀儡の恋
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【一族はもう存在しない。君は自由だよ】
ブレアから届いた一通のメール。それに書かれてあったのはこの一行だけだった。
意味がわからずに反射的に説明を求めるメールを送信する。
しかし、そのメールは相手に届くことはなかった。
「カガリとアスランが帰ってくるぞ」
不意にバルトフェルドがこう告げる。
「本当なのですか?」
ラクスが真っ先に聞き返した。
「あぁ。ザフトの戦艦に乗ってこちらに向かっているらしい……本当に何があったんだか」
それにバルトフェルドはため息交じりの言葉を返す。
ここにキラがいないことは幸いなのだろうか。それとも、と思いながらラウは彼等の会話に耳を澄ます。
「名目が『新造艦の進水式』と言うことだったらしいからな。乗って帰ってきた戦艦がそうなんだろうが……」
だからといって、と彼は続ける。
「……プラントで何かあったのかもしれませんね」
二人を擁護するつもりはない。それでもラウはそう口を挟んだ。
「アーモリー・ワンでしたか? そこで大規模なテロ事件があった、と言う情報もありましたから」
ひょっとしたらテロではなかったのかもしれない。ラウはそうつぶやく。
「……作られていたのは戦艦だけ、でしょうか」
ラクスが首をかしげながらさらに疑問を口にした。
先の大戦の講和条約では保有するMSの上限も決められている。
そのためだろう。各国共に新型機の開発を行っているのだ。
しかし、地球軍は開発に行き詰まっているらしい。
それもこれも、モルゲンレーテからプラントへの技術者大量流出が関係している。ある意味、地球軍の自業自得とも言えるだろう。
この程度のことは指摘しくても彼等にもわかっているはずだ。
「さぁな。だが、新型のお披露目があったとしてもおかしくはないだろうな」
事実、バルトフェルドはあっさりとこう言い切った。
「……ヘリオポリスの再現があったのかもしれないね……」
苦い思いをかみしめながらラウは言葉を綴る。
「そのまま宇宙へと飛び出したのであれば、今回のことも納得できるのではないかな」
さらに言葉を重ねた。
「キラには聞かせられないな」
「そうですわね」
バルトフェルドとラクスがそう言ってうなずいている。
「問題はアスランですけど」
余計なことを口走らなければいいが、とラクスはさらに言葉を重ねた。
確かにその可能性はある。
「……キラと二人きりにしなければいいだろう?」
「それが難しいところですわ」
バルトフェルドの言葉にラクスがため息を返す。
「私がついて行けない場所もありますもの」
さすがに、と彼女は言葉を重ねる。
「それがいるだろう?」
バルトフェルドが笑いながらラウへと視線を向けてきた。
「せいぜいこき使えばいい」
さらに彼はこんなセリフを口にしてくれる。
「私は便利な道具ではないのだが」
「だが、そのくらいはかまわないだろう?」
キラを傷付けさせないためなら、と彼は続けた。
「否定はしないが……」
それでももう少し言葉を選べ、と言いたい。もっとも、目の前の相手にそんな心遣いを期待する方が無駄なのかもしれないが。ラウはそう考えるとまた一つため息をついた。